週刊ガスキー

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ウィクロス引退しました

 ウィクロス引退

 ガスキー


『ネェネェ、今度ノウィクパ劔。ゥI撥D錐年ハ、ドッカ渙ィtーとモ遊ベヒ坥ソ牴xLナイ?』

 ぶよぶよと蠢く肉塊が、暗く粘ついた声でそう言った。

『ウィクロスパtay-? ワザワエャWCQエヒ]?ア角マデ行ッ閂ト:泚麸と?』
『ハハ、勘(煕ヒ&ヤッテクレヨ津久葉。コイツ今WCQエヒ]?ア角咨まッテンダ。ナンカオf&ノ前、コ6GBbュlナッテ始メテすけームVワユア性タ縷ンダカラサ』

 似たような肉塊があと三つ、目の前に並んでいる。テーブルを囲んで、カップに注がれた汚水をさも美味そうに啜り上げながら、金切り声と呻り声とそれ以外の奇声を交わしあっている。

『ナニヨクC。凬5ユーとシタコトナチw蚪/1ノガソンwPム麓ナ(思議?』
『二十Aナ像ナッテ初y(VQウッテノハ、今日日ソウソウイ梗WfA繙ャナイカナ?』
『子供Aノ嫡ハ何トナク怖セ1駐タノヨ。アPム麓、ナン¢c觝物ミタイデサ』

 注意すれば、こいつらの会話の意味を酌み取れないこともない。おかげで僕は、辛うじてこいつらの不信感を誤魔化せるギリギリのところに留まっていられた。
 こいつらが勝手に話し合っているうちは放っておけばいいが、こちらに話しかけてきたときまで無視するわけにもいかない。姿形はどうであれ、こいつらは僕の“ルリグ”ということになっている。

 もちろん、否定したいのは山々だが――僕はもう、とうに抵抗を諦めていた。
 これが悪夢であってくれればと、どれほど願ったことだろうか。
 だが毎朝目を覚ますたびに、世界は昨日と同じように醜く歪んだ姿のまま、そこにあった。
 こいつらの中に混じって、こいつらのプレイヤーである振りをして、僕は暮らしていかなければならない。これまでそうやって過ごしてきた1年3ヶ月と同様に、これから続く一生涯のあいだ、ずっと。

『デモ、イキナ9悋セッテプレイ啅昃? 青海$ーャン、悧ルDナイ?』
『要領ハす羃ユッョ促ソウ変ワルモ晴ジャナイノLオ4ナ。プレイングヲ羃ユッョ促シテ、靴ノ羚2ヨ縁デこん?cPPーるスル感覚トカ』

 口調から察するにこいつは『タマ』だ。その隣でキィキィといちばん頻繁に啼いているのが『緑子』だろう。
 となれば、僕の隣にいるやつは『花代』だ。かつての端正な面影も、今ではもう見る影もない。すぐ傍でぷるぷると身を震わせながら、そいつが放つ|吐瀉物《としゃぶつ》のような|饐《す》えた匂いを、僕はつとめて意識しないようにしていた。

『ガスキ-ニソウ翼罘u」乕モンダカラサ、騙サレタト鵰!XEjヤッテミタわe#nh。ソシタ[3緻ウ、楽シクッテ』
『フゥン……ワタシモ見テミニh希ナ。青海チャン拠隘けーとヤルトコロ』
『ダカラサ、ネ? 今度ノすき滑篥行。ツイデZ塾ィけーと旅行ニシチャエバン濕チオイシク鬆ム3イッテわけヨ』

 そう、何もかも変わり果ててしまった。
 目に映る物すべてが姿を変えて、なのに関係性だけはそのままに残った。僕はこいつらと同じカードショップに通うウィクロスプレイヤーで、かつてはかなり親しい付き合いがあった。冬休みには毎年連れだってウィクロスパーティーに行ったりもした。

 今となっては懐かしい、もう決して戻らない日々の思い出。いっそこいつらも含めて、誰も彼もが僕のことを憶えていなければ、僕はこの世界の『異物』でいられたのだろう。宇宙人か何かに|攫《さら》われて、違う惑星にでも来てしまったのだと思えば、その方がまだ慰めがあった。
 だが、ここは間違いなく地球で、日本で、僕は僕の産まれ育った街に住み、生まれてこのかた二〇年間、慣れ親しんだ社会に属している。ただ、僕一人にだけそう見えなくなってしまった――それだけのことだ。
 世界はもう僕の知る姿をしていない。僕には帰る環境がない。

『デ翫R9ァ……すけーとハす烏鵫ネBV%んくニ行ケバデ肱ルジャナイ。ワザワザすサGー場ニ行ッテマデ、ヤル?』
『ダカラ、屋内ジャ愧Tテサ、屋苞ァ+けーと。凍ッタ塘1Dpデ滑レルトコロ』
『ソンナ都合ノイ冕トコ、アルカナァ……何ダカスッゴク霞'\デソウ』

 ともかく、今のこいつらの話題が何であれ、|益体《やくたい》もない内容なのは察しがつく。聞いているふりだけして黙っていればいい。
 そう思った矢先に――

『ナァガスキー、オ前ハドウ思ウ?』

 肉塊のひとつが、ぎょろり、と血走った目玉を裏返してこっちを凝視してきた。僕に話しかけているのだ。

「どう……って?」

 内心の嫌悪感を必死で押し隠しながら、僕は何気ない素振りを装って返事をし……しようとした。だが声が掠れてうまくいかない。

『イヤ、ダカラサ。今年ノ冬ノウィクパダヨ。オ前モ――行クヨナ?』

 肉塊の頂上あたりにある孔が、グチャグチャと吐き気を催すような蠢きかたをして言葉めいたものを吐き出す。あそこがつまり耕司の頭で、顔で、口なわけだ。1年3ヶ月前の僕にはそう見えていた部位なのだろう。

「わからない」

 直視はできなかった。さりげなく目を逸らして、僕は当たり障りのない返事をした。

『何カ、他ノ予定デモアルノカ?』
「いや、別に」

 タマ――ルリグだった。この場にいる皆がそうだ。かけがえのないカードたちばかりだった。それ以上の関係になってくれようとしたルリグさえいた。
 今はもうその面影さえない。その寂しさに、悲しみに泣いた夜は数知れない。

 そうやって1年3ヶ月。泣いて、泣きはらして、今は嫌悪だけが残った。タマらしき肉塊と緑子らしき肉塊と瑶らしき肉塊に囲まれて、僕は以前と何一つ変わらない素振りを装って茶番を続けている。それが課題だ。こいつをこなせなければ僕はまた病院に送り込まれるだろう。
 以前と違って、もう二度と外に出てこられない病棟へと連れて行かれることになる。
 それだけは願い下げだった。

『ナァ……別ニ、カードスルノガ傷ニ障ルトカ、ソウイウHクケデモナインダロ?』
「どうだろうな。――今日の診療で、店長に聞いてみる」

 もう我慢の限界だった。こいつらの姿を眺めるのも、おぞましい声を聴いているのも。
 なかば辛抱を忘れて、僕は性急に席から立っていた。

『オイ、ガスキー――』

 そいつの発声器官の周りでびらびらと|靡《たなび》く繊毛から、糸を引く粘液の飛沫が僕の顔に降りかかった。とっさに顔を庇ったが間に合わなかった。腐らせた卵の中身のような汚臭の汁が、僕の顔をべったりと濡らしていた。

 もう何もかもどうでもいい。椅子なり机なり、いますぐ手に届く物を片っ端から掴み取ってこいつに叩きつけて、息の根が止まるまで叩きつけて、すべて終わりにしてしまいたい。

 ――衝動を、僕はすんでのところで堪えた。
 気取られてはいけない。僕の目にどう見えていようと、この世界で正常なのは彼らの方だ。異常なのは僕の方なんだ。

「だから、今日もイカなんだ。もう時間だから」

 愛想笑いを浮かべたつもりだったが、上手くいったかどうかは解らない。僕は財布に手を入れ、最初に指に触れた紙幣を確かめもせずにテーブルに置いた。注文した飲み物の代金には充分だろう。釣り銭が出るかもしれないがどうでもいい。一刻も早くこの場を立ち去りたい。

「それじゃ」

 文字通り逃げるようにして、僕はその場を後にした。

 僕は狂ってなんかいない。

 

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いつまで経ってもループデッキが環境に居続けることと、新段がデてもまた新しいループデッキが完成する現状、ルリグごとの異常なまでの格差、パックを買っても嬉しくない当たりカード。値段の暴落。その他諸々についていけなくなりました・・・
一番ウィクロスが楽しかったのはにゃずあんとアルトとチームを組んでそこら中の大会に参加した時でした。あの頃が戻ってくれば、と心から思います。お疲れ様でした。